1.驚愕

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「府知事職を投げ出す、とはまだ言っていないわ」  大畑祥子が新党「日本未来党」を旗揚げし代表に収まった後も、府知事職を兼務し二足の草鞋で行く、と明言していたことを思い起こして、乃理子は釘を刺した。 「投げ出すに決まっているさ」  その可能性は高い、と乃理子も考える。先ほど決起集会から退場する大畑知事にマイクを向け「知事はお辞めになりませんよね」と念押しの質問をしたところ、巧妙にはぐらかされた。  しかし先ほど見ていたリベラル系テレビ番組では、なぜか誰も、知事が府知事職を投げ出すかもしれないことに危惧を唱えなかった。まだ本人が明言していないからだろうか。  いやこれも、知事を与党の強力な対抗馬として国政で勝たせたいが為の意図的な編集、と乃理子は判断する。 「振り返ってみると、府知事就任後に、高過ぎる、と自分で知事報酬の減額を提議したのは、議員報酬を下げて財政を立て直す一助にするというより、国政と二足の草鞋を図る布石だったかもね」  勇気は、その通り、とばかり人差し指を突き出した。 「それ、知事は今年の頭に既に「日本未来党」を商標登録したそうだから、最初から国政に出るつもりで時機を狙っていたわけだ。国政の勉強会とやらも主催していただろう? 与党ボケした大成党が新党旗揚げの動きを察知できず、この時期に衆院解散を決定したのは浅はかだったな」 「でも衆院解散を望んでいたのは野党でしょう? 今になって、この北朝鮮の脅威が増した難しい時期に、とか、政権のスキャンダル隠しだ、とか、選挙準備不足の野党は文句を垂れているけれどね。解散の可能性を白紙だと否定する吉田首相に、解散はいつか、と執拗に質問していたのはメディアだったし」  言いながら、或る考えがふと閃いた。  ひょっとして、野党の準備ができていない時に解散はズルイ、などと識者にコメントさせていたメディアこそが、実は大畑知事の旗揚げを察知しており、吉田首相筋に誤った情報を漏洩し解散判断に向かわせたのではないだろうか、と。  考え過ぎかもしれないが、確かめてみたい。 「勇気、スイーツをありがとう。私、ちょっと行って来る」  乃理子は呆気にとられている勇気を残して席を立った。
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