2.激震

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2.激震

 永田町に激震が走った。  野党第一党である国民党が解党をも視野に入れ、大畑知事の「日本未来党」と事実上「合流」するというのだ。吉田政権を終わらせるためにはどんな手段をも考慮する、という果敢な、いや、無茶ともいえる宣言は寝耳に水で、国民党議員だけではなく大成党も驚いた。  「合流」とはいったい何を意味するのか。候補者名簿を統一して選挙協力するとのことだが、野党四党の既存の選挙協力という公約は、どうするつもりなのか。  非公開の両院議員懇談会から締め出された報道ジャーナリスト達は、国民党総会決定の行方を追うべく、控室で待機しながら雑談していた。 「そりゃ、離党者続きで死に体だと思っていた国民党が、ウルトラCで奇跡の復活。誰だって驚くさ。しかし、国民党を出た議員が大半の日本未来党と古巣の国民党が提携、いったいあの離党騒ぎはなんだったんだ?」  某新聞社の記者が舌打ちした。 「日本未来党が掲げた政策は、消費税増税凍結とか、現政権に財政健全化を迫る野党合意を反故にした無茶なやつだ。そりゃ税金が上がらない方が庶民は喜ぶが、それでいいのか、ってことだよな」 「選挙に勝つ為には何でもあり、ってことだろう。大畑知事は府知事選の公約もまだ果たしていないが、新党を旗揚げして国政選挙に討って出たので、国民の関心はもう次の祭りに移った。日本人ってのは忘れっぽい民族だし、野党の公約なんてどうせすぐ忘れられちまうから、選挙公約は甘ければ甘いほどいい、ってわけだ」  ジャーナリストらしからぬ口をきいて応じていたのは、同じ新聞社の番記者だ。  公約を反故にしていい、ということはない。しかし主要メディアは現政権の公約違反や不適切発言は重箱の隅を突くほどうるさく書き立てるくせに、こと野党に関しては精査が甘いのが現実だ。 「日本未来党は完全なポピュリズム戦略だ。大畑知事はもともと原発推進派だったのに反原発票を取り込むため原発廃絶を政策に掲げた。日本は核兵器を持つことを検討すべき、とか意見したブログまで改変している」  スマホをいじっていた勇気に教えられ、乃理子は彼の手元を覗き込んだ。 「そうなの?」 「これ見てみろよ。安全保障について彼女が論じた文章から、核兵器云々の部分が削除されている。核アレルギーの原発反対者に見られたくない、ってことだろうな」
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