3.密談

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 雰囲気のあるバーでロマンチックなカクテルを飲んでいるのに、なんてヤボな話をしているのだろう、と乃理子は自分でも可笑しくなった。 「要するに、大畑知事が語る政界シャッフルとは、大成党を揺るがす、という以上に現在野党第一党である国民党の左派を切る、ってことか」  勇気の言葉に乃理子はうなずいた。 「大畑知事からして大成党を飛び出して日本未来党を作ったわけだし、寄り合い所帯の国民党にも、元大成党の議員やら元官僚で大成党寄りの政策を追求する議員が多い。 芦原代表は名を捨てて実を取る、とか恰好イイことを言っていたけれど、その心は、保守の日本未来党と連携して中道派を救おう、ってことよ」 「で、左派議員はどうするんだ?」  乃理子は肩をすくめた。  護憲派で鳴らした国民党女性議員にインタビューしたところ、代表の英断を支持するがこれまで支持してくれた後援会の意見も聞きたい、とはぐらかされた。  日本未来党の選挙支援を求めたところで、憲法改正を目指す大畑知事にやんわりと断られるであろうことは眼に見えている。  吉田政権打倒を目指していたテレビの左派コメンテイターも、最初は大畑知事の旗揚げと国民党芦原代表の英断を、政権の危機である、と面白おかしく評していたが、ようやく事の重大さに気づいたらしい。  大畑知事を党首とする日本未来党の躍進が意味するところは、日本で初めて保守二大政党制が生まれる、という意味なのだ。国民党中道派が生き残りをかけて保守に寝返り、安保・改憲反対勢力が外されたということである。  乃理子は、リベラルとされる左派系新聞・テレビ局を念頭に勇気に尋ねた。 「これまでメディアが印象操作までして執拗に政権叩きをしてきたのは、吉田政権を倒そう、っていう企みよね。 で、仮に現政権が選挙に負けて過半数が取れず首相がめでたく引責退陣したとして、その代わりに大畑知事が新しい保守党を率いて首相になったとしたら、彼らはどうするつもりかしら」 「それは面白い質問だな。ま、テレビの場合はスキャンダルは視聴率が取れるから、吉田政権であろうと他の政権であろうと足を引っ張る。 あいつらは反権力のスタンスこそがメディアの責務だ、って妄信しているところがあるからな。何が正しいか、我々が諸君に教えてやる、式の上から目線だからね。
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