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1.驚愕
誰もが驚いた!
まさか大畑祥子がこんなに早く新党を旗揚げするとは予想していなかったからだ。
「これは首相の大誤算でしたね。大畑知事がこれほど用意周到だとは、与党大成党は予測していなかったのではないでしょうか」
女性キャスターの嬉しそうな喋りに、リベラルな政治評論家が満足顔で合槌を打っている。
「野党の体制が整う前に衆議院解散を、との大成党の目論見は見事に潰されました。今が好機だとの大義なき解散が、結果としては大畑知事に政界シャッフルのチャンスを与えてしまったことを猛省すべきです・・」
深見乃理子は時おり傍らのテレビスクリーンを眺めつつ、イヤホンを耳にパソコンで忙しく記事を執筆していた。
ようやく記事を書き終えて入稿し、取材に飛び出そうと思った矢先、同僚の東條勇気がこちらに向かって来るのが見えた。
「乃理子、これは面白いことになったな」
高みの見物をしているかの呑気なコメントだ。大学では同期だったが、司法試験を目指して留年した勇気より、明朝新聞社に入社したのはこちらが一年先輩である。
保守政権の足を引っ張る新聞社ばかり威勢の良い昨今、報道らしい報道をする大手新聞社は明朝一社という状況だと自負している。思わずカツを入れてやりたくなり、乃理子は渋い顔を向けた。
「面白いじゃ、すまないでしょ? ひょっとして大変なことになる」
「大変なことって?」
「この前の知事選挙、忘れたわけじゃないでしょうね」
大畑祥子はもともと大成党党員だったが、大阪府知事に手を挙げたところ党選対幹部とソリが合わずに公認が取れず、府民による府民の為の府政・既得権益の一掃による大改革、を標語に無所属で出馬し、見事圧勝した。
「あれは劇場型選挙だったよね。太陽の色、黄色をシンボルカラーにして、自分もその一員だった与党を敵対勢力と暗示して、盛り上げる。政策らしい政策はないくせに、ひたすら改革を訴えて府議会決定の土木事業の見直しを訴える。でも大山鳴動して鼠一匹、結局、港湾事業も継続が決まっただけだ」
勇気の演説に、乃理子は肩をすくめた。
「野党の戦い方って、そういうものでしょ? 有権者にウケが良い公約を並べ、意図的に敵を作って、私はあなたの見方です、一緒に闘いましょう、と訴える。民衆をノセる。
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