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「──大体だ、人の気持ちが分からないってどういう意味だ? 俺以外の人間は、実はみんな他人の気持ちが分かるのか? そんなわけないだろ? なあ」  吉村、と同期の名を呼びかけて、穂高は口をつぐんだ。隣でカウンターに頬杖をつき苦笑している男は、どう見ても吉村ではない。  ふわふわした髪にアーモンド型の目、華奢な鼻、反面意志の強そうな口元──薄暗いバーの店内で、隣の男だけが光を集めるようだった。スポットライトでも浴びているのかと穂高は本気で思い、その思いつきに自分で笑う。  男に笑いかけたわけではなかったが、彼はふっと息を吐くように笑みを返してくれた。整いすぎた顔立ちに無邪気な笑みが載ると、いきなり雰囲気が若くなる。十人中十人が美形と評する造作に違いないのに、自意識も媚びも感じさせない自然体で、なんだかそこが珍しい。 「真上(まがみ)」  男が嫌がることなく名乗ってくれたので、そうだ真上、と穂高は続けた。 「おまえだって他人の考えてることなんか分からないだろう? 今俺が考えてること分かるか? 当ててみろ、おまえくらい美形なら出来たりするのか実は」     

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