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けれど、とんこはお母さんとお父さんが願ったように、とんとん拍子に成長してはくれなかった。
おむつは幼稚園を卒園する直前まで愛用していた。さらに付け加えると、小学生になってからもとんこはあのごわごわした感触が恋しくなるたび、こっそりおむつを履いたりもしていたのだ。
今年で十歳になるとんこだけど、九九は未だに覚えられない。七の段は一生暗記できそうになかった。
それから、とにかく寝るのが大好きだった。一日の睡眠は最低でも十二時間。調子がノってくると十五時間を越えてしまう。授業中だって、気付けばいつも夢の中。おかげで成績もたいそう悪かった。
でも、お母さんとお父さんはそんなとんこを愛情いっぱいに育てた。
とんとん拍子に成長する、賢い子じゃなくたっていいじゃないか。とんとんと音を立てて螺旋の階段を昇れなくたっていいじゃないか。
だって、私たちが疲れて帰ってきたときは、いつも肩をとんとんと叩いてくれる、優しい子なんだから。
そんな二人だったから、とんこもお母さんとお父さんのことが大好きだった。
とんこは、食べるのだって寝ることの次くらいに大好きだった。だからお母さんは、毎日毎日いっぱいの美味しいご飯を用意した。とんこはそれをひとかけらだって残すことなく「おいしいおいしい!」と幸せそうにもしゃもしゃ食べるのだった。
ただ幸いにして、と言うべきなのか。とんこは美人だったお母さんによく似て小さなときから可愛らしく、それに食べても食べても太らない体質だった。だからまあ、とんこが毎日毎日好き勝手に食べたり眠ったりを繰り返したところで、何も問題はなかったのだ。たぶん。
そんな感じで、みんながみんなちょっと「おとぼけ」なのだけれども、みんながみんなとっても幸せなのだった。
お母さんと、お父さん。そしてとんこ。三人は、そうやって日々を楽しく暮らしていた。
お母さんとお父さんが、不慮の事故で亡くなるまでは。
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