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「こんな時間にこんな話してると、寄ってくるんだけど?」
うん、知ってる、と頷いた私を、加奈子はやや呆れた顔をして見ていた。
「本当に好きなんだ」
「うーん……好きっていうか」
私はただ、探しているだけだ。こんな時間にしか話せない内容を語って、そして、あの暗い影の向こうの、もっと暗いところからやってくる、もの。私が探しているものが、そこにはいるのだとわかっているから。
「必要なだけ、だよ」
解せない、という顔をしつつ、時計を見て、じゃあ始めようか、と加奈子は告げた。うん、始めよう、と私は続けた。
「でもさ、ふたりで百物語って、無理じゃない?」
「で、でも、今日を逃したらもう時間がなかったし」
どうしても今夜、この時間に、百物語をしたかった。どんな理由をつけても、ここに来たかった。
決まった日、決まった時間に百物語をすれば、アレがくる、というのは有名な、信憑性の高い噂話だった。逆を言えば、アレと遭遇するには、ルールに則って百物語をしなければならない。
「そんなに逢いたい?」
俯いたまま、加奈子はそう告げた。
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