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彼女には全部話している。私がアレと逢いたい理由も、そうなった過去も、全部。
「うん、逢いたい」
「あーあ、もうあんたと逢えなくなるとか、寂しくて仕方がないんだけど」
「うん、ごめんね、加奈子」
「謝らないで。もう決めたんでしょ」
彼女の言うとおりだ。あとは、アレが現れれば、それで終わりだ。
「……ごめんね、私、あんたに黙ってたことがあるんだ」
「加奈子?」
隠し事くらい、いくらでもある。私は加奈子に何でも相談してきたけれど、加奈子が私に相談事を持ちかけたことは数えるほどしかない。
「あのね、」
あのね、と続けられた声は、いつもの加奈子の声とは違っているような気がした。いつもよりも低くて、いつもより抑揚がなくて、俯いてしまっているから表情は見えないけれど、声だけ聴くと、怒っているのかと思うような話し方だった。
「加奈子、怒ってるの?」
「怒ってなんていないよ。ただ、うれしかっただけ」
気のせいか、加奈子の影が、少しずつ広がっているような気がする。光なんて、どこにもないのに。
(どこにも、ないのに。どうして、影だって、わかるの?)
そこで初めて、ぞくり、とした。
「どうしたの? ねぇ、待ってたんでしょう?」
そう言いながら、顔を上げた加奈子の顔は、見たこともない、喜色を浮かべていた。
「ごめんね、黙ってて」
そう言いながら手を差し伸べてきたのは、加奈子ではなく、ずっとずっと、私が待ち望んでいた、ものだった。
「ごめんね、本当はずっと、そばにいたんだ」
【Fin.】
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