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 だが、それから一週間と経たぬうちに、彼の目は、ピアスをした娘店員に、嫌でも引きつけられることになった。  再びレジで見かけた時、ピアスを付けた娘の耳は、腫れがひどくなっているように見えた。穴の周辺は、蚊どころか蜂にでも刺されたくらいに赤く腫れ、耳朶からすぐ下の顎の線にかけて、赤い錆でもこぼしたように小さな点々が散らばっている。蒸し暑くなってきた気候のせいだろうか、慣れないピアスに、肌がかぶれたらしい。  レジでの支払いを済ませている間、つい目が娘店員の左耳へ向いてしまうのを、彼は抑えることができなかった。  赤い錆は、見掛けるたびに大きくなっていくようだった。しばらくすると、耳たぶから顎の稜線を越えて、首筋まで伝っているのが見えた。薄い麦色の肌に、赤い爛れの跡が、点々とこぼれている。耳も、ピアスを通した穴の辺りの肉が、醜く盛り上がってきたようだ。どう見ても、金属アレルギーの症状である。かぶれが、初夏の汗と混ざって、首筋にまで飛び火したのだろう。  こうなると、嫌でも目につく。気色悪いので、目を逸らしたくなるのだが、その一方で怖いもの見たさもあり、どうなったのか知りたいという好奇の気持ちに駆られて、彼はつい娘の立つレジに並んで、こっそり観察することを繰り返した。  しかし、ピアスをした娘店員の方はといえば、いくら見つめられても、平然と仕事をこなしていた。表情を変えることもなく、いつもの丁寧だがやや不愛想な接客態度で、淡々とレジ打ちをしていく。その姿は、ピアスにかぶれていることに無頓着で、何か変わったことでも起きましたかと客たちに問い掛けているようでもあり、その一方で、娘の心の内に秘めた、ある強い意志を表明しているようにも見えた。
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