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 週に二、三度見掛けるその娘は、特に目を引く存在ではなかった。  同僚たちと比べても、とび抜けた特徴はない。例えば、木曜日によく見かける三十過ぎのすらりとした色白の奥さんのように、情事の空想を誘う魅力があるわけでもないし、あるいは、クッションみたいにコロコロと太っているが、ニコニコ笑う顔に憎めない愛嬌がある健康優良児の女子高生のようでもない。美人でもなく、さりとて不器量というわけでもなかった。ごく平凡な容姿をした、二十歳くらいの女子大生といった感じである。  しいて特徴を挙げるなら、少しばかりえらの張った四角く見える顔、固太りの農婦を思わせるややがっしりとした体つき、軽く茶に染めた光沢のないボブカットの髪、薄い麦色の肌、まずそんなところだろうか。肌が弱いのか、ときどき半袖の制服から剥き出した二の腕に、赤く浮き出た小さな湿疹を、仕事の合間に掻く癖がある。接客の言葉は丁寧だが、いささか不愛想だ。  しかし、そうしたわずかな特徴も、臙脂色のエプロンと三角巾を身に付けてしまうと、スーパーマーケットの店員という制服のうちに埋没してしまい、他のレジ打ち店員との見分けはつかなくなってしまう。そんな娘である。  だから、仕事帰りの買い物の際に見掛けるようになって半年近くが経っても、彼がその地味な娘を、取り立てて意識することは一度もなかったのである。
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