(1)

10/13

174人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
(確かにあんたの言いたいことは分かるさ)  往来で周りを確かめず、いきなり立ち上がった誉にも非がある。がだこの場合、後ろから来たのは彼の方なのだ。彼も前方不注意であり、一方的に責められる言われはないはずだろう。 (っていうか、故意でなくても他人の物を壊したらまず謝るだろ)  などと心の中で思ってみたものの、体格も性格も反論するのは無謀だと素早く状況判断できてしまう己が恨めしい。  それならば、と誉はちらりと割れた眼鏡を見遣り、小さく唾を飲み込む。 「…一万円」  と、膝を払いながら立ち上がって彼の前にすっと右手を差し出した。弱者と強者の鉄則の如く、目を合わせないよう左斜め下に視線を落としながら。 「は?」 「だから弁償。その眼鏡の代金。全額とは言わないよ。俺も『ボサッと』してたのが悪いし、半額で良いよ」  いくら相手が悪い噂の奴だとしても、少しは良心というものを見せて欲しい。  本当は金額云々より謝罪の言葉が欲しいのだ。ごめんの一言で、気持ちの治まりもあるだろう。それすらも無いのでは割れた眼鏡も浮かばれない。  それにここは学校近くの往来だ。何かあれば目撃者もいるだろうし、酷い目には遭わないのではないかという打算も働いた。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加