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〝何で抵抗しない〟
〝おまえが悪い〟
行為の最中、久住はずっと辛そうな顔をしていた。
憐れんでいたのかもしれない。それを見て無性に悔しさが込み上げた。それとも怒りだったのだろうか。
強烈な出来事だったにもかかわらず、どこか他人事のように現実感が薄く、誉は両手を握りしめてみる。強く握りしめれば握りしめるほど、手にしたものは何もなくて、まるで今の自分そのもののように感じた。
何も求めない。
こんな歪な恋を求めてはいけない。
じゅうぶん分かっていた。だから与えられるなら、たとえ望んでいないものでも受け止めたかった。それによって自分が傷付くことになっても自業自得で、誰も責めたくなかった。
こんな独りよがりな想いに情けはいらない。憐れまれて惨めになりたくなかった。
誉に残っていたプライドは、それくらいしか残っていなかった。
〝おまえが悪い〟と久住に言わせた。言われれば酷く胸に痛みを感じたが、そう仕向けたのは自分自身だ。久住は悪くない、誉が悪いのだと責められればとても安心した。
優しさはひとを傷付ける。
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