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 目に見えて消沈していく誉を見て、加藤は苦笑いして冗談だと告げる。 「峰石って、わりと物怖じせずに言いたいこと言う方だけど、いまだに他人行儀が抜けないよな。そんなに俺が怖い? それとも何かあるのか」  特別室へと続く渡り廊下を歩きながら問われ、心臓がはねる。辺りは人影もなく静かで、加藤の声はさして大きくもないのに耳に響いた。  何度も何度も思い出す。廊下で泣いたあの日、すべてを諦め、求めないと決めたことを。  誰かに縋りたい気持ちが溢れそうになれば、戒めのように居なくなってしまった友だちの顔を浮かべる。そうしなければひとりで立って歩くこともできなかったから──。  特別室のある校舎が見えてきて、加藤は立ち止まり振り返った。 「電気点いてるぞ」  その言葉に視線を上げると、四階の右端に見える特別室からは目印のように明かるい光が点されていた。  なんで、と呟いたまま誉は固まってしまう。  久住か高藤が電灯を消し忘れたまま帰ったのだろうか。それとも、鞄を残している誉が戻ってくることを見越して、点けたままにしているのだろうか。あり得ないことではないけれど、誉はそのどちらでもないような気がした。 (あんなことがあった後だから…)  何故だか久住が待っているような気がした。     
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