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 誰も傷付けたくない。誰にも傷付けられたくない。誰にも憐れまれたくない。  なのに本当は、誉自身が自分のことを一番憐れんでいた。  かわいそうな自分。  誰にも見向きされない自分。  ひとりぼっちな自分。  そうやって出来上がったのが今の峰石誉なのだ。  結局、幼かったあの日の自分がいまだに誉の心を支配している。心も体も久住を求めても、立ちはだかるのは〝かわいそうな自分〟だ。それが当たり前のように居座り、欲しいものを欲しいと言えなくさせる。  辛くない、と言えば嘘になる。だけど、大切なものが目の前からなくなってしまうことの方が、よほど苦しい。  それは裏返しでもあった。  深く関わらないことで傷付かないで済むという、心の安定があったから。  心が不安定に揺れ動くことは怖い。  それなのに、久住を求めてやまない。  どうすれば、誰にも執着せず生きていけるのだろうか。  流れる住宅街の明かりを見つめながら、ガラス窓にそっと手を触れてみた。窓越しの明かりはただでさえ弱く、手で覆えば消えてしまう。流れるままにまた現れた明かりを、誉はどこかほっとしながら見つめた。
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