(1)

11/13

174人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
 彼はチッと舌打ちすると、割れてフレームだけになった眼鏡を拾い上げる。 「悪かったよ。俺も前ちゃんと見てなかったし…。つかさ、おまえホント何してたわけ? あんなところに突っ立てたら邪魔だろ」  謝罪の言葉もそこそこに、彼は邪魔くさそうに尋ねた。  そんなこと関係ないだろうとは言えず、 「…あんたとぶつかる前に誰かが後ろからぶつかってきて、転んだんだよ」  渋々そう答える。すると彼はじっと誉を見つめ、ニヤリと口の端を吊り上げた。 「そーいうことは早く言えよ。で、誰だ?そのぶつかった相手は」 「は? …いや、あんたに関係ないし」  嬉々とした表情で答えを待っている彼に、誉は一抹の不安を感じずにはいられなかった。 何故この状況で嬉しそうな顔を見せるのか謎としか言いようがない。 「これも何かの縁だ、遠慮せずに言えよ。悪いようにはしねーから」  どこが〝縁〟で、何を〝悪いようにしない〟のか誉は理解し難く顔を顰めた。 「遠慮してないから。そもそも誰だか見てないし…」 「何だよ使えねーな。…おーい、誰かコイツにぶつかった奴見なかった?」  見下し、またもやチッと舌打ちすると、本人そっちのけで彼は周りに声を掛け始めた。 (初対面なのに使えないとか…普通言うか?!)     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加