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遮るようにそう言うと、スマホのスピーカーから柄の悪い怒鳴り声が聞こえた。それを無視して画面をタップして通話を終了させ、ついでに電源も切った。直に聞いていたら心臓が縮み上がりそうなほどの剣幕だったが、幸いなことに怒鳴り声の主はいない。
力が抜けたようにふっと笑った。
コンビニの明かりが誉を待っているかのように辺りを照らしている。あと少し歩けば店に辿り着く。
これは誉の勝手な意地だと分かっている。だけどもう決めたことだ。
徐々に歩調を緩めて立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
勘違いであってほしい、自意識過剰な笑い話であってほしいと思いながら、見据えた先には想像していた人物が立っていた。
「もう…やめてくれませんか、坂上さん」
突然振り返った誉に驚くでもなく、坂上は少し困ったように笑いながら間合いを詰めてくる。
「じゃあ、今晩だけ付き合ってくれる?」
***
食事時のファミレスでは、老若男女さまざまな客がテーブルで飲食や歓談を楽しんでいる。テーブルごとに仕切られたつい立て兼背もたれで、お互いの会話はほとんど干渉しない。
「誉くん、お腹空いてるだろ。好きなもの頼みなよ」
誉の向かいに座る坂上がメニューを開いて見せながら寄越す。それを受け取るものの、この状況ではとてもではないが食欲などわいてこない。とはいえ飲食店に入って何も注文しないわけにもいかず、無難にソフトドリンクの一覧を眺めた。
「じゃあ…、カフェオレで」
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