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そう言うと、坂上は近くに居た店員に声を掛け注文し始める。
本当にこんなことで諦めてくれるのだろうかと不安と疑念で、誉はメニューを盾にして相手を観察するようにじっと見ていた。
「そんなに見つめられたら、好きなのかと誤解するよ」
誉の視線に気付いていたずらっぽくそう言うと、盾にしていたメニューを奪って元の位置に戻した。
「…ちがいます」
「知ってるけどね」
坂上は誉にふっと柔らかい笑みをこぼし、飄々と答えながら胸ポケットから聞こえる着信音を確認すべくスマホを取り出した。仕事絡みだったのか、坂上は「ちょっとごめんね」と言い残して席を立った。
そういえばこういう人だった、と思い出す。
坂上と遥夏が付き合っているとき、──遥夏が別れたいがために──美人局役をさせられたことがあるが、からかったりおちょくったり、飄々としてつかみ所のない人間だった。
美人局をさせられている間も、決して誉のことを本気で好きで手を出したようには見えなかった。わざと乗せられている雰囲気がちらちらと見え隠れしていた。そして久住に助けてもらったあの日も、雨で人通りが少なかったけど、わざと人目につきやすいところを選んだのかもしれない。
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