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誉にとって本気で恐怖したものだったが、考えてみれば隠れる所もない場所であんな大胆な行動を起こすような人間には思えない。
むしろ誰かに見せつけているかのような──。
「お待たせしました」
誉と同い年くらいの女性店員が、注文の品を確認しながらテーブルに並べる。目の前に置かれたカフェオレに、静かに口を付けてぼんやり窓の外を眺めたら、見知った顔が血相変えて通りを走り過ぎていった。
(あ、電源切ったままだったんだ)
これはまずい、と無意識のうちにカップをソーサーに戻して居住まいを正した。
あんな風に一方的に話を終わらせれば、誰だって心配するのは当たり前だろう。そもそも誉の身の上を案じてボディガード役を買って出てくれたのだ。一発二発は殴られる覚悟はしておかなければならない。そもそも好きな相手から殴られる覚悟をするとは一体どういうことなんだ、と冷静なのか動揺なのか思考の収拾がつかない。
気を落ち着かせようと、気休めにカフェオレをまたひとくち啜った。
「ごめんね、急に会社から電話が入って」
ほっと一息ついたところで、電話を終えた坂上が席に戻ってきた。
「いえ」
「それより本当に何か食べなくていいの? もっと美味しい店に行く?」
「…坂上さん」
誉が呼びかけると、坂上はコーヒーを一口飲み、うん?と目だけで返事する。
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