(9)

7/19
前へ
/182ページ
次へ
「晩飯付き合ったら解放してくれる、て話…」 「うーん。晩ご飯だけだと割に合わないんだけど、誉クン高校生だしね」  坂上は大げさにがっかりした風を装い肩を竦めた。 「そういうの、いいですから。そろそろ本当のことを教えてくれませんか」  その一言で、コーヒーカップをソーサーに戻そうとした手が止まる。 「本当のこと?」  何のことだか分からないな、と坂上は首を傾げて薄く笑っている。 「ほら、カフェオレ冷めるよ」  誉のことを気にかけつつ、戻したメニューをまた引っぱり出して甘い物を勧めてくる。演技の上手い俳優のようにそつのないその態度が空々しくて、逆に確信した。 「俺は」  空気も流れもぶち壊し、深呼吸とともに吐き出す。 「あんな…ことされたけど、坂上さんのことを兄のように感じてたときもありました。だって、本当は遥夏が好きなんでしょ?」  坂上の瞳が一瞬揺れる。 「あんなことされたのに、そんなこと言ってつけ込まれたいのかな?」  からかうように言われても、その言葉には何の威力も無かった。誉はただじっと、坂上の本心を聞くまで何を言われようと動じるつもりはなかった。  坂上はやがて根負けしたのか、開いていたメニューを閉じ、誉に向き直る。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加