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「晩飯付き合ったら解放してくれる、て話…」
「うーん。晩ご飯だけだと割に合わないんだけど、誉クン高校生だしね」
坂上は大げさにがっかりした風を装い肩を竦めた。
「そういうの、いいですから。そろそろ本当のことを教えてくれませんか」
その一言で、コーヒーカップをソーサーに戻そうとした手が止まる。
「本当のこと?」
何のことだか分からないな、と坂上は首を傾げて薄く笑っている。
「ほら、カフェオレ冷めるよ」
誉のことを気にかけつつ、戻したメニューをまた引っぱり出して甘い物を勧めてくる。演技の上手い俳優のようにそつのないその態度が空々しくて、逆に確信した。
「俺は」
空気も流れもぶち壊し、深呼吸とともに吐き出す。
「あんな…ことされたけど、坂上さんのことを兄のように感じてたときもありました。だって、本当は遥夏が好きなんでしょ?」
坂上の瞳が一瞬揺れる。
「あんなことされたのに、そんなこと言ってつけ込まれたいのかな?」
からかうように言われても、その言葉には何の威力も無かった。誉はただじっと、坂上の本心を聞くまで何を言われようと動じるつもりはなかった。
坂上はやがて根負けしたのか、開いていたメニューを閉じ、誉に向き直る。
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