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「茶番? でも遥夏がいつも気にしてたのは〝誉〟だったよ。言葉の端々から負けたくないっていう気持ちがにじみ出てて、でも好きだから、可愛い弟だから守らなくちゃっていう正義感が見てて可哀想になってさ。じゃあ、その企みに乗っかってみようかな、て思ったんだ」
心底迷惑な話だと思った。だけど、坂上からは遥夏に対する愛情が見え、どうしてこんなおかしな状況になっているのだろうと頭を捻った。
「たぶん誉クンには理解らないと思うよ。遥夏も自分のことを分かっていなさそうだからね。それに愛情の伝え方は人それぞれだから」
「こんなことしてたら逆効果じゃ…」
誉が不満と不安を目一杯詰め込んだ表情を見せると、坂上は種明かしをした。
「気付いてなかったかもしれないけど、誉クンに手を出したのは遥夏の目の届くところでだよ」
あまりの事実に絶句してしまう。
ということは、美人局をしてたときも、雨の日に公道で襲われたときも、坂上は遥夏を意識してやっていたということになる。
「本当に…、理解出来ません」
誉は目を据わらせテーブルを見つめると、だろうね、と他人事のように坂上が答えた。
これが愛情を伝える手段なのか、と自分に問うてみる。しかし理解の範疇を超え答えなど出るはずもなかった。
もっと分かりやすく気持ちを示せば早く伝わったのではないのか。早く伝われば誉の件(くだり)など必要ない。どうしてこんなややこしいことをしてまで、遥夏に見せつける意味があったのだろう。
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