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 遥夏の後ろを隠れるように付いて歩くのがお決まりだった誉は、これを機に姉離れをしようと心に決めたのはこの頃だったように記憶している。元々多くの人と上手く関わるのが苦手で、少人数と深く付き合うタイプだったため、友だちの数は片手の指で足りるほどだった。  そんな平穏で波風のない穏やかな毎日が一変したのは、『モデルをしている遥夏の弟』だとどこかから漏れ伝わったことだった。一日もあればそのことは学校中に広がり、休み時間ごとに現れる野次馬たちの対応にも苦慮していた。それどころか、知らない間に増えていく挨拶すら交わしたことのない〝友だち〟が、誉と仲の良かった友だちを追いやってしまったのだ。 「おれたちとは住む世界が違う」 「有名人が家族だから」 「地味グループは用済みだろ」  ずっと仲が良かったと思っていた友だちからの拒絶の言葉に、頭を殴られたようなショックを受けた。  自分が上手く対処できなかったからこんなことになったんだ、そう思うしか誉の心を守ることができなかった。  そこから誉の地獄の生活が始まった。  有名人が家族にいるということが、逆に足枷になった。姉と違って地味なくせにスカしてて態度が悪いと詰め寄られ、土下座して詫びろと強要された。登下校に、人の見ていないところでランドセルを蹴られたり、わざとぶつかって転ばされたり、生傷が絶えないようになった。  それでも態度を変えない誉に業を煮やして、その矛先が遥夏に向かった。     
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