(1)

13/13

174人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
 先を走っていたと思っていた彼は大きく足を踏み込み、ゲラゲラと下品な声で笑っている二人組の男子生徒めがけて跳び蹴りを見舞っていたのだ。見舞われた方は、突然の跳び蹴りに意味も分からず呆気に取られ、地面に倒れたまま彼を見ていたが、何かを話す彼に首を勢い良く振って助けを求めていた。成り行きを見守る野次馬たちも口々に『やっぱりあいつは』とか『噂通りだ』などと好き勝手に言っている。  誉も心の中で激しく賛同する。  暴力や恐喝という言葉が頭の中をぐるぐる回り、先ほどまでの彼との会話が、映像が克明に思い出された。眼鏡代を要求したことを、今になって無謀なことをしたのだと気が付いた。 (よし、逃げよう!)  本能が関わったら危険だと、心臓の音が鼓膜を響かせる。  誉は野次馬の壁に隠れて、一目散に校舎へと逃げ込んだ。 『お前がいねーと話になんねーんだよ』  そして、上履きに履き替えたところで彼の言葉を思い出し、貧血を起こしそうなくらい血の気が引いた。  一瞬後には、遥夏との姉弟喧嘩でも出したことがないほどの全速力で、誉は教室まで駆けて行った。  走っている間も、人が宙を舞っている残像は頭から消えることはなかった。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加