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「何でも一人でできるかって言われると無理なこともあるけどさ、でも、友だちはいるから大丈夫」
遥夏の肩が小さく震えている。
「守らなきゃいけないのは、…大事にしないといけないのは、俺じゃない。ちゃんと顔を上げて周りを見なよ」
誉は壁に投げつけられて転がっている枕を拾った。遥夏に対する感謝や後悔などがない交ぜになって手に余る。
「そんな姿、女王様には似合わないよ」
枕を遥夏に投げると、それをぎゅっと抱き込みゆっくりと起き上がった。こちらを向いた目は赤く充血していたけど、涙のあとはなかった。きっとあの日と同じように歯を食いしばり、溢れる涙を我慢したのだろう。
「偉そうに。私に指図するなんて十年早い」
「そうかも」
顔を見合わせ、同時に吹き出した。
***
空は冬型の気圧配置を示しており、夕方からぐっと冷え込んでくるでしょう、と駅ビルの大型液晶パネルが日々同じようなことを喋っている。それを横目でちら見して、誉は横断歩道の信号待ちをする。
襟元にはしっかりマフラー、両手には手袋がはめられ、防寒対策は抜かりない。朝出掛けに、遥夏がブランケットを巻いたままトイレに入るのも見慣れた光景だ。
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