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誉は冷静に突っ込み、いまだ火照る顔を手団扇でぱたぱたあおぐ。防寒対策が仇になった。
「俺たちも行くか」
「うん」
誉と久住は、あれから少しずつぎこちなさがなくなり、たわいない話やお互いの家族のことなどを話せるほど、以前と変わりないくらいの距離感でいる。
ただ、お互いの気持ちや空き教室での一件に関しては、暗黙の了解のように触れないようにしていた。
「なあ、モデル、辞めることにしたのか?」
「うん。やっぱり俺には向いてないし、頼まれてた期間だけにする」
「そっか」
それだけ誉に訊くと、久住は何も追求してこなかった。モデルの仕事についてあまり興味はなさそうだとは思っていたが、ここまであっさりしていると少なからず寂しいと感じる。誉自身にあまり関心がないのと同意だと思うのは被害妄想だろうか。
「せっかくだし、最後に見学させろよ」
「はあ?!」
「なんだよ。別にちらっと見るくらいいいだろ」
「いやいやいやいや。何言ってんの? なんで自分より向いてそうな人に見せなきゃいけないわけ?! 無理だから。今だって限界振り切ってやってるからね?!」
混乱のあまり誉は早口で捲し立てる。勢いに飲まれて久住は思わず「お、おう…」と生返事をしていた。
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