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モデルのバイトはしていると打ち明けていたが、久住だとてそれが女性ならぬ女装モデルだとは思わないだろう。
「じゃあ今度高瀬に雑誌見せてもらうわ。この間あいつが、おまえっぽいのが居るっつってたから」
「高瀬死ね」
「あ? 何か言ったか?」
「別に。それなら俺が家で雑誌探してみるから今度持ってくるよ」
殊更なんでもないことのように笑顔を貼付け、誉は久住を見上げる。満更でもない顔で、じゃあそうするわ、とすんなり納得してくれた。心の中で何度もガッツポーズをする。
(案外ちょろいな)
俯いて、久住から見えない角度でほくそ笑む。
誉が探しているふりをして、やっぱり無かったと言えばそこまで久住も食い下がらないだろう。そもそも雑誌など家にいちいち残していない。先週の資源ゴミの日に母がごっそりごみとして出している。証拠になるようなものは処分するのが一番だ。
「おっはよー。珍しい組み合せだねー」
後方から声をかけられ二人して振り返れば、誉にとって今一番会いたくない高瀬だった。うっかり舌打ちしそうになるのを押しとどめ、表情筋を使って薄く愛想笑いを浮かべる。
「おう。さっき会った」
「うん、同じクラスの加藤も一緒だったんだけど、先に行っちゃって」
「そうなんだー」
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