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久住の言葉に説明を加えて、さり気なく二人だけではなかったことを伝えると、高瀬は気の無い返事でするりと猫のように誉の隣に並んだ。
「ねえ、さっきなんで笑ってたの?」
目をキラキラさせて高瀬は誉の答えを待っている。
「っ…気のせいじゃない? それより高瀬はいつもこの時間なの?」
一瞬詰まりながらも、素知らぬ顔で疑問を返す。面倒臭いやり取りだけど、相手を煙に巻くには疑問を投げかけられても、疑問で返してしまう方が手っ取り早く話題をすり替えられる。誉が他人から踏み込まれないように培った処世術だ。
「んんー。今日はたまたまこっち方面の子のところから来ただけ。いつもはもっと遅いよ」
「こっち方面の子?」
「そう。こっち方面の子」
高瀬は意味深に笑うだけで誉の疑問には答えない。それを見ていた久住が嫌そうな顔で会話を拾う。
「要するにどっかの女の家から来たってことだろ」
「せいかーい」
さすが久住、などと茶化しながら他人事のように高瀬は答えた。いつも飄々としてつかみ所がない高瀬がさらにつかみ所がなくなって、最早別人のようだ。
噂で高瀬は不純異性交遊の現場を教師に見つかったと聞いたことがある。が、十人が十人そんなことをしているような生徒には見えないと答えるだろう。誉も例にもれず同意見だ。
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