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追い討ちをかけるように久住に凄まれ、泣きたいのを通り越して力なく笑った。
「ごめん。やっぱ今の無かったことに」
「するわけねーだろ」
言うや否や久住が誉の肩をがっちり抱いて歩き出し、拗ねたように零す。
「なんでそんな他人行儀なんだよ」
「ごめん…」
そう素直に謝れば、久住に至近距離で覗き込まれ、恥ずかしさに目を逸らしてしまう。
「バカなことしたな」
え、と思わず久住を見上げると、久住は前方を見据えたまま続ける。
「おまえに酷いことして、やっと自分の気持ちに気付いた。最悪で最低で、自分が怖かった」
誉が口を開こうとすると久住が目で制し、肩に回していた腕を解いて向き合った。
「何でも罰は受ける。何でも望みも聞く。だから、リベンジさせてくれ。これと一緒に」
久住は胸ポケットから掌サイズの黒革のケースを取り出す。見覚えのあるそれを誉の手に乗せると、雑踏の音に紛れるほどの声で囁いた。
「好きなんだ」
正確には聞こえなかった。だけど唇の動きが誉に語った。
耳で聞き、目で知り、脳で理解すれば、身体中を喜びが駆け巡った。
全身が心臓みたいにどくどくと脈打ち、苦しいのに幸せを感じた。噛みしめれば泣きそうになった。
嬉しいと苦しいは隣り合わせだと、初めて知った。
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