174人が本棚に入れています
本棚に追加
「そのままだよ。オーナーが必要ないって、入れなかったんだ」
御崎はやれやれとでも言わんばかりの顔をしている。確かに経営のいろはも知らない誉でも面喰らう話だ。
一般的な飲食店では建物に看板やネームプレート、食器や箸袋といった雑貨類に店名を記している。少なくとも誉が入ったことのある店ではそれが当たり前だった。だから疑問が残る。
「それだと…お客さんは何を目印にお店に来るんですか? 俺が前に店に来たときも、店の前を通りかかったときも、結構お客さん入ってましたよ」
「うん。そこはまあ、一応広告とかも出してるし、タウン誌の取材も何度か来たみたいだしね。それに、看板とかはないけど、ライトアップされたら浮き出てくる仕様にはなってるから」
「浮き出る…?」
先ほどから疑問ばかりを呈しているが、御崎は謎がさらに謎を呼ぶ話法で、あえて要点を少しずらしているように思える。
「あ、シチューできたみたいだ。啓太がすごい顔してこっち来る」
最初のコメントを投稿しよう!