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我ながら被害妄想にもほどがあると思い、気を取り直してビーフシチューを口に入れた。やっぱりうまい。飲み込めば一瞬の高揚と後味の幸せがたまらない。
幸せを持続させようとパクパクと口に入れていると、久住が嘆息しながら「悪ぃ」と、ぽつりと謝った。誉はなぜ謝られているのかわからず、急いで口の中のものを咀嚼して飲み込んで尋ねる。
「なんで謝んの?」
「いや…、確かにバイトは募集してるわけじゃねーけど、言い方が悪かったと思って」
落ち込んでいる久住に誉は一瞬ぽかんとし、慌ててかける言葉を探す。
「あー…うん。でも俺もいきなり勝手なこと言い出したし」
気にすることはない、平気だ、と誉が笑顔を向けてみるが、久住はほんの少し口角が上がったもののの、気持ちが上がることはなかった。目に見えて消沈する姿は、普段がいかつい分だけ気の毒に見える。
それなのに、と思う。
久住から誉に向けられた真摯さに嬉しさがふつふつと湧いてくる。
ひどい人間なのかもしれない。だけどそれだけ誉のこと想う気持ちの大きさに、喜びを感じて仕方ないのだ。
舞い上がりそうになる心を落ち着けて久住を見れば、いや、と力なく首を横に振る。
「違う。俺の方が勝手なこと言ってる。本当は……、接客なんかしたら、ちょっかいかけられるのが心配なだけなんだよ」
じっと誉を見つめながら、久住は静かに述べる。
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