(11)-1

6/7
前へ
/182ページ
次へ
 我ながら被害妄想にもほどがあると思い、気を取り直してビーフシチューを口に入れた。やっぱりうまい。飲み込めば一瞬の高揚と後味の幸せがたまらない。  幸せを持続させようとパクパクと口に入れていると、久住が嘆息しながら「悪ぃ」と、ぽつりと謝った。誉はなぜ謝られているのかわからず、急いで口の中のものを咀嚼して飲み込んで尋ねる。 「なんで謝んの?」 「いや…、確かにバイトは募集してるわけじゃねーけど、言い方が悪かったと思って」  落ち込んでいる久住に誉は一瞬ぽかんとし、慌ててかける言葉を探す。 「あー…うん。でも俺もいきなり勝手なこと言い出したし」  気にすることはない、平気だ、と誉が笑顔を向けてみるが、久住はほんの少し口角が上がったもののの、気持ちが上がることはなかった。目に見えて消沈する姿は、普段がいかつい分だけ気の毒に見える。  それなのに、と思う。  久住から誉に向けられた真摯さに嬉しさがふつふつと湧いてくる。  ひどい人間なのかもしれない。だけどそれだけ誉のこと想う気持ちの大きさに、喜びを感じて仕方ないのだ。  舞い上がりそうになる心を落ち着けて久住を見れば、いや、と力なく首を横に振る。 「違う。俺の方が勝手なこと言ってる。本当は……、接客なんかしたら、ちょっかいかけられるのが心配なだけなんだよ」  じっと誉を見つめながら、久住は静かに述べる。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加