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違和感に、首を傾げて久住を見上げれば、誉の視線に気付いて久住も同じように首を傾げる。しかし、すぐさま久住はぱっと手のひらで口元を覆った。明らかに目を逸らしている。
「…今の、聞かなかったことに」
「できるわけないだろ」
あからさまな動揺にすかさず突っ込めば、久住はちらりと横目で伺ってくる。
「歩きながら話す」
そう言って駅の方へと先に歩き始めた。
慌てて久住の隣に並べば、歩調を少し緩め誉の速度に合わせてくれる。
「お前のバイト先…つってももう辞めるんだよな」
不意に久住は、前を向いたままそう言う。誉は頷いて久住の次の言葉を待った。
「実はそこの社長と親父が幼馴染で、ちょくちょくうちにデリバリー頼むんだよ」
「へえ、そうだったんだ!」
誉は事務所の社長の顔を思い浮かべ、いまだに親交があるなんて仲がいいな、と微笑ましくて顔がほころぶ。
「だから俺がデリバリーに行ってたんだけど、結構会ってるっつーか、見かけてるっつーか…」
歯切れ悪く喋る久住を見上げ、ほのぼのした気持ちから一転、不安が広がる。
(嫌な予感がする…)
聞きたくはないが聞かずにはいられない確認事項がある。
「それは、社長のことかな? それとも…俺、かな?」
引きつった笑顔で恐る恐る尋ねれば、久住は申し訳なさそうな顔で誉だと言った。
(ジーザス!)
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