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   ***  久住が自宅の玄関を開けてすぐ、顔をしかめた理由を察した。五秒も経たないうちに以前通してもらったリビングから、久住の妹、真由が鬼の形相で現れたのだ。  以前久住と会話した中で、妹がいるとは聞いていたが、ただ事ではない雰囲気に息を飲む。 「急にバイト押し付けんな! バカ兄貴!」  真由はそう怒鳴ると、手にしていた上着を久住に投げつけた。誉は思わず久住の背中に隠れたが、真由の方は怒りが収まらないらしく、投げつけた上着をひったくるようにして回収すると、久住を押しのけながら玄関のスニーカーに片足を突っ込んだ。そこで漸く誉の存在に気付いたらしく、しばし沈黙の後、真由は何事もなかったように笑顔を向けた。 「初めまして、妹の真由です。全っ然気が利かない兄ですけど、ゆっくりして行ってくださいね?!」  先ほどの荒れ方が幻かのように、真由は小首を傾げて瞳をきらきらさせながら誉を見上げてくる。今の状態の真由なら久住の妹とは思えないほど可愛いので騙されそうだが、現場を見てしまった誉は年下といえど震え上がるのに十分な迫力を感じていた。  久住を若干盾にして誉も自己紹介をする。     
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