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   *** 「真由のことは気にすんな。いつものことだし、我が儘なんだよ」  誉を自室に通し、飲み物を持ってきた久住が誉の向かいに座りながらため息混じりにそう言った。  往来で二人して盛り上がった気分はいつの間にか立ち消えて、お互い沈んだ表情で沈黙が訪れる。  誉は真由に対して誠実に対応したつもりだが、もっと他にうまい断り方があったのではないかとそればかり気になっていた。生まれて初めて異性から好意を向けられて、驚きが勝っていたのもあったが、相手がちゃんと納得するような言葉を答えられていただろうかと悔やむ。  人を好きになって、初めて、人を思いやることの大切さを学んだように思う。久住を好きになって、想いに蓋をする苦しさや諦め、もどかしさを経験した。同時に、ふとした表情や仕草に胸の高鳴りや甘酸っぱさをおぼえ、そして側に居られる喜びを感じた。  何色にも変わる自分の心が、ときに不安で、ときに楽しくて、かけがえのないものだと今ならわかる。     
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