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 ふと教室の時計を見ると、一時間目が始まるまでそう時間が残っていなかった。取るものも取らず、誉は慌てて職員室まで駆け出した。    ***  職員室からの帰りに誉は重い足取りで自分の教室まで荷物を取りに戻ると、一斉に注目を浴びることになった。  ひそひそと小声で交わされる言葉を聞き取ることはできなかったが、どうせろくでもないことを言われているのだろう。仕事の都合上、クラスにあまり馴染めていなかったから、今さら何を言われていようが気にしても仕方がないのだが、遠慮なく刺さる視線がとても痛い。クラスで唯一の話相手の加藤は、お気楽な笑顔で手を振ってはいたが…。  数々の視線にいたたまれず、誉は手早く荷物をまとめると教室から出て行き、校舎の離れ小島ともいうべき『特別室』までの道程を、どんよりとした面持ちで歩き始めた。 (加藤のやつ、絶対特別室のこと理解してないんだろうな)  仕事のせいでクラスに馴染めない誉に唯一話しかけてくれた人物、それが加藤だった。  そんな彼だから当然誰とでも馴染めるわけで、時には誉とクラスメイトとの架け橋なども請け負ったりもしていた。彼の性格的なものかもしれないが今まで嫌な顔ひとつ見せることもせず、要所要所で誉が孤立しないようさり気ないフォローを入れてくれたこともあった。     
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