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 巷では評判の進学校だが、校則はいたって緩い。化粧も染毛も特に罰せられることはないうえ、アルバイトも職種にはよるものの許可されていた。ただし、極端に成績が落ちない、という前提ではある。そのせいか飛び抜けて目につく生徒というのは、誉の知る限り殆どいなかった。こういったところがこの校風にありながら進学校と言われる所以なのだろう。  『自由には責任がついてくる』と、いつだったか全校朝礼で校長がそんなことを言っていたのは、まだ寒さを感じる季節ではなかったと記憶の糸をたぐる。  首元を吹き抜ける風に身を竦め、誉は少しずり落ちたスクエア型の眼鏡を中指で押し上げた。ついでに制服のネクタイもきつく締め直す。気休めだと分かっていても、少しでも隙間から風が入らないようについついしてしまうのだ。  再び冷たい風が頬を撫でていき、誉は大きく身震いした。姉である遥夏の忠告を今頃になって後悔する。 (セーター着てくりゃ良かったな…)  誉の横目にマフラーや手袋をした同じ学校の女子生徒が通り過ぎる。毛糸のもこもこふわふわ感がとても温かそうだ。誉は自分を見返し、彼女達との格好の差にさらに寒さが増したように感じて、知らぬうちに恨めしそうに見つめていた。  ぼんやりと防寒具を見ているうちに、今朝の遥夏とのやり取りを思い出した。 「誉、今日かなり冷えるからセーターくらい着てったら?」 「えー?この間もそう言って寒くならなかったじゃん」     
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