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「本日から三週間、特別室にて授業を受けてもらう。その間、遅刻・欠席・早退など無いように」
今述べた塚本の言葉が、そのまま訓示として書かれた紙片を受け取り、誉は粛々と頭を下げた。
「それと」
忘れるところだった、と付け足す。
「峰石の他にあと二人、久住と高瀬も一緒だ。喧嘩するなよ」
「け、喧嘩?!」
というのが二、三十分前の出来事である。
何のために必死になって逃げ隠れしたのか。最初から決まっていたことをただ遠回りしていただけだったのだ。無駄な努力とはこのことだろう。
歩き始めた足も、気の重さから自然と重く遅くなる。
(これじゃ特別室に着く頃には、重力倍になってるな)
この状態を嘲けて、誉は進む足に力を与える。
我ながら複雑なポテンシャルを持ち合わせているなと思う。どんなに後ろ向きな気持ちだろうと、進む足は前に向かっている。後には引けないのだ。
うだうだと考えていたことも、廊下の突き当たりの扉が見えたとたんに霧散した。気が付けばもう目の前まで訪れていた。特別室は、建物も違えば位置的にも対角で、精神だけでなく物理的にも遠いはずなのに、よほど考え込んでいたらしい。
扉の上に貼ってある、『特別室』と名の刻まれたプレートが目に入った。
緊張しているのか小刻みに手が震える。
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