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 なるべく静かに扉を開けようと試みるが、意に反して扉はガチャリと開閉する音を立て、室内に居た久住とばっちり目が合ってしまった。 「……」 「……」  お互い何も言わず、ただ無言で見つめ合う形になる。堪えきれず先に視線を外したのは誉の方だった。  そのままさり気なく室内に目を見遣る。長机が横長に三列並び、部屋の奥のホワイトボードに一番近い一列目の右端にさっき職員室で名前を聞いた高瀬、三列目の出入り口から一番遠い左端に久住が座っていた。取りあえず誉は空いている二列目に向かい、なるべく久住から離れられるよう右端に荷物を降ろし、椅子に腰掛ける。  身勝手な考えだけど、罵詈雑言でもいいからせめて何か言ってくれた方が気が楽だ。後ろめたさがいつまで経っても拭えない。久住がここへ来た理由がもし朝の一件だとしたら益々後ろめたい。それとも人目があるから何も言わないだけなのだろうか。 「ねえ、ここ初めての人? ボクは高瀬。少しの間だけどよろしくね」  そう言って前に座っていた高瀬が突然くるりと振り返り、人懐っこい笑顔で話しかけてきた。職員室で久住と並んで立っていた男のことを思い出す。あの時は自分の姿がバレないようにすることに必死でよく見ていなかったが、高瀬もまた久住とは違った整った顔をしていた。     
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