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 ただ、勉強が楽しいと思ったことはなかった。将来の自分にとって〝今〟必要なだけであって、それを突き詰めていくのではなく、あくまでも大学進学に備えてという気持ちで勉強しているだけだった。  きっと皆同じような考えだろうと無難な方に進んで行ったとも言えなくはない。だが誉には、何か打ち込めることを見つけ出す方が難しいことに思えた。  これと言って特技も趣味も無く、友人が片手の指にも満たない誉にとって、ありがたいことに時間だけはあった。だから勉強時間は腐るほどあり、勉強は言わば先行投資のようだと解釈してただひたすらに問題集と格闘してきたのだ。  それなのに、だ。  どうしてこうなった、とぎりぎり奥歯を噛みしめる。恨めしく作文用紙を見つめてもなかったことにはならず、刻まれた皺を伸ばすようにぐっと眉間を抑えた。  想い描いた輝かしい未来、そんなものを夢見ていたわけではない。平凡だけど多数が進む道を自分も同じように行くのだと思っていた。カルガモの親子のように、誰かの後を遅れないよう、離されないよう付いて行けば安心だと思っていた。  現実はあまりにも違う未来を歩み始めている。だけど今ならまだ間に合うかもしれない。  早く軌道修正しなければと、作文用紙を睨みながら模索する。  画一的に並んだレールに押し出されるように進んでもいい。個性などなく、地味でもいいから平凡で穏やかな人生を歩みたいのだ。     
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