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     3  特別室で一日を終え、重い身体を引きずるようにしてモデル事務所まで辿り着いた。今日は撮影があるわけでも遥夏の遣いで訪れたわけでもない。意を決して、社長に学校での誉の置かれた状況を報告しにきたのだ。外聞の良くない話なので自分から話すのも億劫だが、優先すべきは学業である。放置するわけにもいかない。  誉たちの所属するモデル事務所は、繁華街の中でも大通りに面したとりわけ目につきやすい五階建てビルの二階の一室にある。一室といってもほぼワンフロアを借り切っているので、室内は広々としていて他社と顔をあわせることも滅多になかった。  一階はコンビニ、二階より上の階は英会話教室やパソコン教室といった老若男女問わない習い事、他にはベンチャーのような会社が数社入っているだけだった。そのため誰からも怪しまれることなく、気兼ねなく制服のまま行き来することができていたのだ。  モデルの仕事のために目立たないよう、わざわざどこかで着替えてという手間がないのは唯一よかったことと言える。     
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