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遥夏は早く言えとばかりに誉の向こう脛を軽く蹴り、二、三人殴ったあとのような人相の悪さで見下ろしていた。二人にあまり身長差がないため、遥夏がヒールのある靴を履くと自然と誉を見下ろす形になるのだが、普通の人なら萎縮するところだ。この姉の元で育って十七年の誉にとって、何の自慢にもならないけれど通常営業すぎて慣れたものだった。
「別に関係ないじゃん。代打で仕事出てんだろ。早く撮影もど」
れ、と最後まで言い切る前に、遥夏が無言で掌を縦にして振り下ろした。鈍い衝撃とともに誉の頭に手の側面がめり込む。チョップだ。とびきり、ヘビー級の。
「いだあっ!」
あまりの痛みに反射的に声を上げ、頭を抱えて蹲った。容赦のない鉄拳制裁に、誉は涙目になりながら下から睨みつけ、抗議の声をあげる。
「何するんだよ! 馬鹿じゃねえの?! ひとが気ぃ使って言ってんのに!」
「誰が馬鹿だ、誰が。馬鹿はアンタでしょうが」
遥夏もしゃがみ込むと、ぎゅむと誉の頬を容赦なくつねり、勢いよく引き離した。
「いっだあッ!」
(鬼か! 鬼なのか! 知ってたけど!)
「社長に何話すつもりよ。どうせアンタのことだから、往生際悪く辞めさせてくれとか言うんでしょ。無理だっつーの」
誉の悲痛な叫びを聞き流し吐き捨てる。
遥夏は決めつけのように言ったが、あながち間違いではない。現に今でも辞められるのなら辞めたいと思っているのだ。
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