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 契約書にサインし、押印してしまったので、それが覆ることがないとは分かってはいる。子供ではないからそれくらいは理解できる。しかし理解は出来、諦めてはいても愚痴はこぼしたくなる程度には子供だった。 「だってしょうがないだろ。学校にバレたんだぞ? いくらバイトしてもいいつっても限度があるって言われて……。もしまたバレたら、今度は停学になるかもしれない。こんなの続けて何の意味があるんだよ。学生の本分は学校行って勉強することじゃねーの? こんなことやってて意味あんの? ……俺は姉ちゃんとは違う。地味で平凡で普通の生活がしたいんだ」  誉は拳を握りしめ、苛立ちのままにぶちまける。誰にぶつければいいのか分からない不満、漠然とした将来への不安を、今日起こった様々なことが引き金になり一気に溢れ出した。  黙って聞いていた遥夏は、ふうと息を吐き誉の頭に手を置くと、 「アンタの言いたいことはだいたい分かった。でも仕事として受けた以上、途中で投げ出すことはできない。それは分かってるでしょ? ──だから、終わればアンタの自由にしな。それまでは私が、学校の方はなんとかするから」  力強くそう言い残し、メイク室へと消えて行った。  誉は遥夏が言った言葉をゆっくりと咀嚼すると、ふっと肩の力が抜けていった。     
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