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 暗い茶色の板張りの床、同系色の壁、暖色の照明。総じて落ち着いた雰囲気なのに、店内中央に位置するアイランド型の調理場は、スポットライトを当てたように明るかった。  調理場を奥に引っ込めるのではなく、前面に出すスタイルは今や珍しくもないが、まだ高校生の誉が気軽に入れる店ではないということはすぐさま理解できた。  店の奥側の壁にずらりと並ぶ和洋の酒瓶。調理場からの訝しむような視線。客の年齢層の高さ。おまけに店員──久住啓太──の眼光の鋭さがとどめを刺している。  久住の方から招き入れておいて睨むとは何事だろうかと、誉は理不尽さに目眩を覚えた。  制服で入店してしまった場違いさと久住の威圧感に居た堪れず、入って来た扉へと視線を泳がせる。 「出よう…」  万がいち補導をされたらたまったものではない。ただでさえ特別室でペナルティを受けているというのに、さらに問題を起こせば停学か謹慎か、両親に否が応でも今回の処分が明るみになってしまう。放任主義の峰石家でも見過ごすことのできない問題だ。それに放任ではあっても無責任なことをしない両親だから、心を痛めてしまうのではと思うと誉自身が嫌だった。  一緒に店に入ったはずの久住が調理場にいるのをさいわいに、そっと店を出ようと扉に右手を掛けた。 「お客様、お掛けになってお待ちいただけますか?」     
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