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 耳元で囁かれた声は妙に艶があり、変に意識してしまった。男が男に感じる感覚ではないとは思うものの、体は言うことを聞かない。  他にもっと言いようがないのかと、久住に対して赤い顔で自分勝手に腹を立てる。  体が触れ合いそうな近い距離で逃げ道を断たれ、プレッシャーに押し潰されまいと平静を装ってみても、頭の中はパニックだった。  勝手に焦り、勝手に羞恥に襲われ、勝手に腹を立てている自分は、なんて滑稽で情けない人間なのだろう。同性に襲われた経験が仇となって、こんなおかしな意味に取ってしまうほど、他人に慣れていなかったのだ。  気落ちしていくとともに、恥ずかしさで染めていた頬から熱が引いていく。  人との関わりが少ないから、距離感も、意味のないことでも、大げさに捉えてしまうだけなのだろう。きっと。  冷静に自己分析して、いまだ久住の感触の残る右手をじっと見つめていた。
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