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食事を終えると久住の姿は見えなくなっていた。このまま帰ってしまってもいいのだろうかと辺りを見回す。レジに先ほど料理を運んでくれたウェイターの彼がいたので、これ幸いとばかりに久住はいないのか尋ねてみた。
「申し訳ありません。彼はいま所用で出てまして」
「そうですか…」
御馳走されたお礼と、理由を後で尋ねるつもりだったのでがっくりと肩を落とす。別に気落ちするほどのことではないのに、もう少し久住と話してみたいと思ったのだ。明日ではなく今、この高揚感と勢いで。
あからさまに気落ちした誉を見て、ウェイターは小さく笑う。
「久住とは、お友達ですか?」
「えっ、あ…いえ、その…何なんですかね…?」
質問にどう答えていいのか分からず、しどろもどろに言葉を濁す。誉と久住の関係は特別室で繋がっているだけで、知人というには濃い出会い方をしたものの、友人というにはかかわりがなさすぎる。学校では挨拶を交わすことはおろか、目を合わせることさえないのだ。その関係を説明するには、誉の経験則に基づいても答えは出てこなかった。
ふと我に返ると、ウェイターは誉の困りっぷりをきょとんととした顔で見ていた。
「あっ! えっと、友達ではないですけど、一応(期間限定の)クラスメート、です…」
誉は変な空気にしてしまったと、慌てて前言をフォローするよう付け足した。尻蕾みな話し方になったのは自信のなさのあらわれだ。
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