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 実際その器量を生かしてファッション誌のモデルをしているから他より抜きん出ているのだろう。近所の方からも『美人で優しいお嬢さん』で通っているのが誉は釈然としないものの、やはり見てくれは悪くないらしい。姉に対して容姿を誉めるということは、その姉に似ていると言われる弟の身として自画自賛のようで居たたまれない気持ちになる。しかし似ているからといって『男前、格好良い』といった賛辞を貰ったことがないのだから世知辛い世の中である。 「今日、家帰れんのかな…」  溜め息まじりに小さく呟く。自分で招いた結果だとは言え、つくづく緊張感の絶えない姉弟関係だ。  思い返すと遥夏には昔から散々な目に遭わされてきた。使いっ走りにされるのは序の口で、酷いときには彼氏と別れたいがために誉を女装させ、『私のきょうだいに手を出すとかいい度胸じゃない』などと、美人局のようなやり口で浮気現場をでっち上げたこともあった。ヤクザさながらのやり口に閉口したのは言うまでもない。無理が通れば道理が引っ込むとは言うが、無理をするにもほどがある。  その後、件の彼氏に自分は男だと説明してもしつこく言い寄られ、本気で恐怖に戦いたこともあった。立派なトラウマである。  そんなことがあったにも関わらず、遥夏といえば『アンタ、私に似て可愛いからしょうがないよね!』と、呵々大笑していたのだ。自分さえ良ければいい、まさにその典型といえる。  そんな遥夏が今ではご近所受けの良い、そこそこ名前の売れているモデルなのだ。世間の真実というのは、残念なことに見た目が多大に影響するらしい。  ありえない、と誉は顔をしかめて小さく頭を振った。直後背中に強い衝撃を受ける。 「うわっ」     
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