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思考は海の底を漂いつつも、何事もなかったかのように身の回りを整頓し始める。
こんな些細なことを気にしていると思われるのも情けない。ちいさな子供ならいざ知らず、誉は十七だ。センシティブな年頃という言い訳にも、若干厳しい年頃でもあった。
何もない所で転んだときのような格好悪さは取り消せないけれど、無かったことのように振る舞うことはできる。そうしていれば、いずれ本当に何もなかったのだと脳が書き換え、心も落ち着くだろう。
そして一刻も早く先ほどのやり取りを、久住の記憶から抹消されることを誉は願った。自尊心を守ることだけで頭がいっぱいだった。
***
遥夏がモデルを始めてしばらく経った頃、世間に注目されるようになった。
当時まだ小学生だった誉は、純粋に誇らしい気持ちでいっぱいだったが、別に言いふらしたり自慢することもなく、ごく親しい友人たちと変わらない毎日を送っていた。
事態が一変したのはそれから間もなくのことだった。
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