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 どこからか遥夏が誉の身内だと周囲に知れ渡ったのだ。途端、『友だち』と名乗る人間が増えた。初めは寄せられる好意に嬉しさを滲ませていたが、日に日に増え続ける『友だち』と、視線の数に戸惑いが膨らんでいった。彼らは有名人の家族がどんなものかといった好奇心や、遥夏に対する羨望があったのだろう。しかし授業と授業の合間の休み時間まで『友だち』に埋め尽くされた誉は、慣れない状況が許容量を超えてしまい、いつしか逃げ出すことしか考えられなくなっていた。  そんな誉の気持ちを知ってか知らずか、次第に周囲も落ち着きを取り戻した。遥夏とは正反対の、地味で大人しい誉に何の面白さも見いだせないと分かったからだろう。気が付けば騒がしかった周囲から『友だち』は潮が引くように居なくなった。  これで良いと思った。  大人しい部類の誉とは逆の、身の丈に合っていない人たちとの友達ごっこは、向いていなかったのだ。慣れないことに振り回されて、やっと落ち着けると、そう思った。  だけど現実は甘くなかった。『友達』は、今まで親しくしていた本当の友人たちまで連れて行ってしまったのだ。  どうしてこうなったのか分からない。分からないけれど、小学生という小さな世界では、この現実を受け入れる他なかった。それに数少ない友人に離れた原因を直接聞けるほど、誉は精神的に強くはなかったため、諦めの気持ちの方が勝ったのだ。  誰も悪くはない。遥夏が有名になったのも、友人たちが離れていったのも、上手く関われなかった誉の落ち度だ。もう少し上手く対処出来ていたら、きっと今頃誰も離れて行くことはなかったのだろう。  選択を誤った。そう思わないと誰かを責めてしまいそうだった。     
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