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 誉は心に蓋をして、人気の無い廊下で少しだけ泣いた。    ***  先日の久住との苦いやり取りで、誉は『平常心の取り戻し方』スキルが身に付いた。  何てことはない。ただ無心に素数を数えるだけなのだが、耳に入れたくない会話や言葉を遮るには打って付けだった。どんなに聞きたくない会話でも、聞こえてこなければ何も感じることはない。  音楽を聴くという手も考えたが、音楽を聴きながら別のことを考えてしまうため、誉には向かなかった。何も考えないようにするのは案外難しいのである。 「なあ久住。どっちが可愛いと思う?」 「…あ?」  昼休み、誉の前の長机に座っている高瀬は、自前なのかはたまたどこかから借りたのか、女性もののファッション雑誌を手にしていた。 昼食を済ませ席を立った久住に、ちょうどいいとばかりに声をかけたようだ。  誉は弁当の唐揚げを頬張りながら、素知らぬ振りして伸びた前髪の隙間からチラと窺う。久住は面倒臭そうに渡された雑誌を手に取ると、少し驚いたような顔をして開いているページを爪で弾いた。 「…こっち」 「へー意外。清純派なんだ」 「別にそんなんじゃねぇよ」 「照れない照れない。ちなみにボクはこっちね」     
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