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誉の角度からは雑誌の中身を知ることはできないが、おおかた好みの女の子の話でもしているのだろう。胸が、足が、と具体的なパーツをあげて、クラスの女子にはとても聞かせられない会話をしている。驚くことに誉との会話をたった一言で終了させた久住が、高瀬とはぽんぽんと会話の応酬をしているのだ。どんな顔して話しているのだろうと、さり気なく表情を盗み見れば、普段と変わらない無駄に整った顔に仏頂面を貼付けていた。特段楽しそうなわけではなかったようだ。
よかったと少しだけほっとする。
ほっとして、誉は思考停止した。
安心したのも束の間、何でだよと焦って自分に突っ込みを入れる。たとえ久住が誰と楽しそうに話していても誉には関係ないし、いつもの仏頂面で安心するような変なかかわりも持っていない。
ただ単に高瀬とは話が弾んだだけで、自分に話を広げる技術やコミュニケーション力を持ち合わせていなかったのだ。それなのに羨ましがるのは筋違いだろう。と、誉はそこまで考えて愕然とした。
(羨ましい…?)
誰かと楽しそうにしているのを見たくなくて、もっと話したくて、もっと久住と関わりを持ちたかったというのだろうか。
これではまるで──。
誉は長机にごつんと鈍い音を響かせ、強かに頭を打ち付けると、今度は無理やり思考停止させた。これ以上考えることを理性が拒否した。
ひとしきりセクシャルな談義を交わしていた久住と高瀬は、音の出どころを振り返るとしばし唖然とする。
「おい大丈夫か? どうした?」
机に突っ伏して微動だにしない誉に駆け寄り、心配そうに声をかけたのは久住だった。
よもやこんなことで久住から誉に関わることはないと思っていたため言葉が出てこない。
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