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 これは独占欲だ。見つけた目新しいおもちゃを独り占めしたいときのような幼稚な欲求と同じだ。  突然変わった環境のせいで過剰に意識し、混乱してしまっただけだと結論づける。赤く染まる頬やどくどくと響く心音。胸の高鳴り。そして漠然とした不安。誉はそれらを抱えたまま黙殺した。  ただの独占欲だけでは説明のつかない胸の苦しさは、弁当の唐揚げが脂っこかったせいにする。  とりあえず今はまだ何も考えなくていい。環境に慣れる準備期間だ。  誉は午後の授業に備えて、平常心を取り戻すべく身につけたスキル、『素数』を唱え始めた。集中力が高まってきた頃、ふと『回復呪文も身につけられたらいいのに』などと埒があかないことを考え、またふりだしに戻った。  ぶつけた額がうっすら痣になっていることに気付いたのは家に帰ってからだった。
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