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 特別室へ着くなり誉は安堵の息を漏らした。しかしすぐ、いやいやと頭を振り目を眇める。心の中でこっちがアウェイだろと突っ込むものの、教室での場違い感に本当にここがアウェイなのかさえ怪しかった。突っ込みごと行方不明になりそうだ。  そもそも自分の居場所なんて元々あったのだろうかと悩む。加藤の架け橋がなければ今頃クラスに馴染むことはおろか、存在すら危うかっただろう。辛うじて名前を認識されている程度の誉が、居場所を求めるなどおこがましい。どこだろうと慎ましく、波風が立たなければそれでいいのだ。  自分は意外とどこででもやっていける。適応能力が高いのだと、無理やり納得させて落ち着いた。  誉は急いで着替えると、部屋の隅に積まれていた椅子を引っぱり出してズボンを干す。  入り口を振り返って、今日は遅いなと、いつも誉より先に来ている彼を思った。  雨のせいか久住はまだ来る気配はなく、自分の待ちわびているような素振りがどうにも堪らず顔をしかめた。 「おーい、峰石。手が止まってるぞ。目ぇ開けたまま寝てんのか」  はっと我にかえり、ぶんぶんと頭を振る。 「すみません」  俄に注目を浴びて消え入りそうな声で謝り、頭を下げた。すると誉の前に座る高瀬が肩を揺らしながら笑い出す。 「こんな人がガラッガラの部屋で勇気あるね。ボクでも遠慮するよー。気持ちは分かるけど」 「あほか。どこだろうと寝るな」  そう言いながら教師は呆れた顔を高瀬に向けた。     
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